フローラルノート(3) スズラン
第3のフローラルノートはスズランです。 スズランは名前の通り鈴(スズ)のような花で、5月頃に可憐な花を咲かせます。香りは植物感のある華やかな香りです。
フランス語ではミュゲ。フランスではメイデー(5月1日)にスズランを贈る習慣があります。
スズランじたいの香りは素晴らしいのですが、実は香水中に含まれるスズランのフローラルノートは、基本的には天然物ではありません。合成物です。
その理由のひとつはスズランの毒性です。これは、コンバラトキシンやコンバラマリンなどによるものです。この「コンバラ・・・」とは、スズラン属をコンバラリア(Convallaria)というためです。
つまり、コンバラトキシンは「スズランの毒」という意味。この毒はスズランの身体全体に含まれており、特に花や根などで含有量が高い物質です。スズランを切り花として生けておくと、その水にも毒が溶けて出てきます。このため、スズランの精油を取ろうとした場合、精油中にこれらの毒が含まれてしまう可能性があります。
そこで多くの香水では、スズランとして合成香水が使われています。
多くは「ヒドロキシシトロネラール」という合成香料です。シトロネロールは「フローラルノート(1)〜バラの香り」の項でも触れました。バラに似た香りの物質で、バラのフローラルノートを構成する成分のひとつです。ヒドロキシシトロネロールはこのシトロネロールを加工した物質、つまり誘導体です。
フローラルノート(4) リラ
フローラルノート(4) リラの香り
以上が3大フローラルノートですが、この他に有名なものとしてリラの香りもあります。リラの香りを含めて4大フローラルノートと呼ぶこともあります。
リラ、和名はムラサキハシドイと言います。小さな紫色の花(白などもあります)を咲かせます。
花が枝の先にかたまりのように咲くため「端集い」と名前がついたという説もあります。
もっとも、和名の「ムラサキハシドイ」より英語やフランス語の方が有名です。英語でライラック(Lilac)、フランス語でリラ(Lilas)です。 宝塚歌劇団には「すみれの花咲く頃」という曲があります。その原曲は、『白いリラの咲く頃』(Quand refleuriront les lilas blanc)というシャンソンです。つまり、原曲では「すみれ」ではなく「白いリラ」でした。
なお、厳密に言うと上記シャンソンは「再び白いライラックが咲いたら」(ドイツ語Wenn der weiße Flieder wieder blüht)というドイツの歌のカバー曲です。いずれにせよ、「白いリラ」でした。
日本で歌われた当時、リラは馴染みがないからすみれに変えたようです。 リラの香りの花の麗しさから現在では日本でも広く栽培されています。そのため、リラやライラックで通じるようになっています。 香気成分としてはライラックアルコールなどがあります。
フローラルノート〜まとめ〜
香水で使われる3大「フローラルノート」+αについて説明してきました。香水は化学的にも文化的にも興味深い背景を持っています。これからも、フローラルノート以外の香水の秘密に迫っていきます。
フローラルノート(1) バラの記事はこちら↓
香水と言えば花の香りは忘れてはいけない要素です。調香の世界では「フローラルノート」と呼ばれています。フローラルは「花の」ですが、「ノート」は意外かもしれません。もちろん、日本語の「ノート(ブック)」の意味とは異なります。実は「ノート」には、「楽器の音色、音符、ピアノなどの鍵(けん)」という意味もあるのです。
調香はある種、音楽のようなもの。香りのハーモニーが香水で、そこに響く「花の香り」が「フローラルノート」なのです。