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香水の歴史をさかのぼる
香りの水、香水。私たちは日常的に香水を使っていますが、その歴史は古く人類が火を使い始めたころにまで遡るといわれています。
宗教的儀式に用いられた香煙から始まり、香料、香油、精油の抽出、さらには、医療用の薬草に至るまで世界中で香りは人類の生活の一部として重宝されてきました。
今回は、古代から続く香水の歴史を遡りながら、イタリア・フィレンツェの世界最古の薬局として今もなお世界中の人々を魅了し続ける『サンタ・マリア・ノヴェッラ』の歴史とともに、「香りの芸術」と称されるフレグランスをご紹介します。
古代
香水は英語でPerfume/パフュームですが、この語源であるラテン語のPer Fumumには、「煙による」という意味があります。古代の人々が香りのよい木や草などを焚いて、その香煙を神仏にささげていたのが始まりでした。
古代エジプトでは、王や王妃が亡くなると亡骸に香料や防腐剤を塗りミイラにして手厚く葬りました。香りは「甦り=再生」につながると考えられていたため、香料は古代エジプト人にとっては欠かすことのできない貴重品として扱われていたのです。
ギリシャでは、香料の製造が盛んになり、入浴後に香油を体に塗る習慣が市民の間にまで広がりました。この香料がギリシャからローマに伝わると、新たにローズウォーターなどが作られ、古代ローマの貴族達の間で大流行しました。貴族のたしなみとして、1日数回の入浴後に香油や香料を体や衣服に塗り、浴室から寝室に至るまで住居を香りで満たし楽しんだといわれています。
中世
中世になると、キリスト教の勢力により香料は贅沢品とみなされました。
その頃イスラム圏では、植物の花、茎、根、葉、種子、樹皮などを蒸留し、植物に含まれる芳香性の油である精油を抽出する方法が発明されました。精油をアルコールに溶かし、現在の香水の原型が作られたといわれています。
その後、精油を使った香料は、15世紀の東西貿易の発展とともにヨーロッパに伝えられました。
イタリアやフランスでも香料が生産されました。入浴の習慣がなかった当時の貴族達の間で体臭を予防するため、香料が大流行。
さらに皮革産業で栄えていた南フランスのグラースでは、革の消臭のために香料が使用されていたのをきっかけに、近郊で原料となる植物の栽培が本格的にスタートし、香料産業が発展します。
オー・ド・トワレのような香水ができたのは、ちょうどその頃16世紀末のこと。フランス王のアンリ2世に嫁いだイタリア・フィレンツェのカトリーヌ・ド・メディチが、お輿入れの際に持ち込み世に知られるようになったといわれています。
近代
その後、近代に入るとヨーロッパを中心に様々な化学構造の研究が進みました。精油に含まれる芳香成分の化学構造が解明されるにつれて、多様な芳香成分の合成が可能になります。
20世紀に入ると、分析技術はさらに向上し、それぞれの芳香成分の種類、量、詳細な分子構造などが解明され、複数の芳香成分が組み合わさった複雑な香りを合成することができるようになりました。
そして今日、石油やアルコールなどを原料に合成された香料が、香水、化粧品、芳香剤など様々な用途に活用されています。
サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局の歴史
花の都・フィレンツェ。今も尚、中世の面影が色濃く残る世界遺産のこの街は、ルネッサンス文化発祥の地、そしてメディチ家の栄華を伝える街として世界中に知られています。
この街の玄関口であるサンタ・マリア・ノベッラ駅を降りると、目前に威厳を放つサンタ・マリア・ノベッラ教会が見えてきます。サンタ・マリア・ノベッラ薬局の歴史は、ドメニコ修道院が設立したこの教会と共に始まりました。
修道院薬局とメディカル・ハーブ
イタリアの修道院の起源は、遡ること6世紀、ローマとナポリの中間にあるモンテ・カッシーニの山中に聖ベネディクトが、戒律のもと集団で修行生活を行う修道院を設立したのが始まりです。遠方からの巡礼者や病人をも受け入れ、祈りと労働の共同生活を送りました。
修道院には必ず大きな庭園があり野菜やハーブなどの薬草が栽培されていました。これらの薬草は病人の治療に使われながら、消毒液、軟膏、気付け薬などの薬品も製造されるようになりました。
当時の修道院は病院としての役割も果たしていたため、こうした薬草の栽培・処方研究が盛んに進められ、これらの研究が今日のメディカル・ハーブの原点となったのです。
1216年、ボローニャから12人のドミニコ会修道士達がフィレンツェにやってきます。
古い城壁に囲まれていたフィレンツェでしたが、修道士たちは城壁外の新しいエリアに教会「サンタ・マリア・ヴィーニェ(武道畑の聖母マリア)」を入手します。名称の「ノヴェッラ/novella」とはイタリア語で「新しい」を意味する「nuova」に由来しています。
この城壁の外の新しいエリアが、まさに修道士達の新天地となったのです。
1221年には、教会に併設した修道院の中庭で薬草の栽培が行われ調合が始まりました。
もともとは修道院内の医務室で使用する薬・軟膏・香油に使用するための薬草の栽培でしたが、その効能のすばらしさを聞きつけて多くの人が駆けつけるようになります。
1381年には、バラから抽出した精油で作られたローズ・ウォーターが初めて販売されました。
ヨーロッパ中を襲ったペストの被害を少しでも軽減すべく、修道士達は香りのみならず殺菌効果の高いバラの花びらを蒸留して薔薇水を製造し、薬として飲用していたと伝えられています。
1612年、薬局は一般の人々への販売を始めるようになりました。
高品質の製品はやがてメディチ家から称号を与えられることになり、1659年には当時のメディチ家の当主フェルディナンド2世より「王家御用達」として認可されます。
1700年以降は、インドや中国にもサンタ・マリア・ノヴェッラの名声は広まり、そして今日、アメリカ、南アフリカ、台湾、中国、そして日本にも多くの店舗を展開しています。
サンタ・マリア・ノヴェッラの薬草園
サンタ・マリア・ノヴェッラの製品は、フィレンツェの歴史的地区にある本店から約3キロ離れた郊外にある工場で、800年もの間守られ続けてきた修道士たちの手法を受け継ぎ、当時のレシピに忠実に基づいて製造されています。
この工場の近く、メディチ・ぺトライア邸に面したカステッロの丘の上に、広大な敷地を有したサンタ・マリア・ノヴェッラの薬草園が拡がります。ドメニコ修道士達が13世紀から修道院内の庭園で栽培していた伝統的な薬草たちが今なお生産されています。
サンタ・マリア・ノヴェッラの製品にも使用されている薬草たち。代表的なものを見てみましょう。
・バルサミテ:苦味のあるバルサム香の野草として知られるこの薬草は、揮発性精油として神経を活性化したり月経不順を解消する成分を含みます。この植物の精油と蒸留水は、アックア・デッラ・レジーナの他、パスティッケなどの昔ながらの定番商品に使用されています。サンタマリア草と言われるほど長期にわたり栽培されてきました。
・ジネストラ:鮮やかな黄色い花が特徴のジネストラ/エニシダは、香料が豊富に含まれる植物。溶剤を使って花から香料を抽出して精油を精製します。サンタ・マリア・ノヴェッラの香水、ジネストラやアイリスにも使用されています。
・アイリス:アヤメ科アヤメ属のアイリスは、その芳香を花ではなく地下茎から抽出します。この地下茎から漂う強い香りを抽出して精油を精製して香水アイリスなどに配合したり、精油を乾燥させてパウダー状にしたものをタルカム・パウダーやポプリに使用します。
・ジャスミン:古くはエジプト、インドでも栽培されていた魅力の花、ジャスミン。その強い芳香はクレオパトラやメディチ家の代々当主たちにも深く愛されてきました。女性用の香水成分として広く愛され、香水カプリフォーリオやフィエノなどに使用されています。
・ラベンダー:イタリア中に自生する植物で、その優れた有効成分により精油を抽出するため広く栽培されています。ラベンダーの精油は、呼吸器系のトラブルをはじめ、不眠、神経質、不安、認知症障害、消化不良、などを改善する成分を含んでいるため、薬草栽培には欠かせない植物です。香水フィエノに使用されています。
・カプリフォリオ:スイカズラ属に属するピンクの花が特徴的なカプリフォリオ。イタリアでは若い娘の寝室に飾ると愛の夢をみる効果があり、婚活中の娘に良縁を願う家庭で飾られていたという言い伝えがあります。香水カプリフォーリオに使用されています。
「王妃の水」誕生秘話
医師ならびに薬剤師を祖とするメディチ家に誕生したカテリーナ・ディ・メディチは、1533年にフランス王オルレリアン公アンリ2世のもとに嫁ぎます。メディチ家の娘として芸術をこよなく愛し食や美容にも精通していた彼女は、婚姻の際にイタリアから料理人や食器、当時は貴重だった菓子類や化粧品などさまざまな調度品を持ち込みました。
その中に「王妃の水」がありました。サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局の調合師を同行して好みの香水を作らせ、はるか彼方の故郷フィレンツェに想いを馳せたと伝えられています。この香りはたちまちパリで話題になり、フランスの香水ブームを作ったと言われています。
現在も「王妃の水/アックア・デ・レジーナ」は、サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局の香水の定番商品として世界中のセレブリティに愛され続けています。
サンタ・マリア・ノヴェッラの厳選6選
歴史的なレシピを忠実に守りながら、ヨーロッパの香りそのものを今も作り続けているサンタ・マリア・ノヴェッラのフレグランス。ここからは、厳選6商品をご紹介いたします。
サンタ・マリア・ノヴェッラ ジネストラ
トップノート:ジネストラ
ミドルノート:ラン、
ラストノート:オークモス
トスカーナの丘に自生するジネストラ/エニシダは、細長い枝に蝶形の鮮やかな黄色い花をたくさん咲かせます。ほんのり甘いフローラルとフレッシュで快活なグリーンが見事に調和した香り。
ユニセックスでお使いいただけます。
サンタ・マリア・ノヴェッラ アルバ ディ ソウル
トップノート:ベルガモット、フレッシュ・スパイス
ミドルノート:韓国マツ
ラストノート:パチョリ、オリエンタル・ウッド
2012年に発売されたアルバ・ディ・ソウルは、きりっとした柑橘系シトラスのトップノートが韓国マツのミドルノートに変化し、オリエンタル・ウッドが余韻を残すフレグランス。
ユニセックスで楽しめるのでプレゼントにも最適です。韓国マツの深い山林をイメージさせるオリエンタルな香りは、気分を落ち着かせる鎮静作用もあるので癒しのひとときを楽しめるでしょう。
サンタ・マリア・ノヴェッラ アイリス
トップノート:アイリス
ミドルノート:スイートフローラルノート
ラストノート:オークモス
トスカーナの丘に自生するアイリスは、フィレンツェの街のシンボルでもある花。その強い芳香は地下茎から長い時間をかけて抽出されます。神話の中でも度々登場する荘厳な花として長きに渡り人々に崇められてきました。上品で優雅な香りが漂います。
サンタ・マリア・ノヴェッラ カプリフォーリオ
トップノート:ベルガモット、レモン、オレンジ、ジャスミン、
ミドルノート:ハニーサックル、イランイラン、マグノリア
ラストノート:オークモス
スイカズラを意味するカプリフォーリオは、甘くて爽やかなフローラルのシングルノート。
花言葉は優しい気質。スイカズラの周囲のものに巻きつく習性から愛の絆のシンボルでもあります。
アモーレの国イタリアならではの情熱的かつ上品な香りです。
サンタ・マリア・ノヴェッラ エバ
トップノート:カラブリア・ベルガモット、シチリア・レモン
ミドルノート:ブラックペッパー、ナツメグ
ラストノート:オークウッド、タバコ
毎年6月と12月に開催される世界最大級のメンズプレタポルテの見本市ピッティ・ウオモとのコラボで誕生したエバ。柑橘系シトラスのすっきりとしたトップノートは、暑いイタリアの夏をすっきり爽やかな空間に変えてくれます。
年齢や性別を問わない、そして場所を選ばないユニセックスな香りです。
サンタ・マリア・ノヴェッラ フィエノ
トップノート:ベルガモット、マンダリン
ミドルノート:ジャスミン、ラベンダー、ワイルドローズ、クマリン、
ラストノート:マツの実、ベチパー、バニラ
あの皇帝ナポレオンが愛用していたことでも知られる「フィエノ」。トスカーナの田園風景を髣髴とさせるウッディフローラルのブーケは、すがすがしい気分にさせてくれるフレッシュな干草の香りです。ユニセックスでお使いいただけます。
まとめ
サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局のルーツは、1221年のフィレンツェに遡ります。8世紀にもわたる伝統は、まさにフィレンツェの歴史とともに育まれてきました。
それらすべては、着実に今日に受け継がれているのです。この歴史とともに、あなたの日常が香りの芸術に満たされますように!